過労死水準の医療現場

 

4、行政訴訟から民事訴訟へ

 医師・看護師の過労死に、遺族が労災補償制度による補償のみで満足するわけではありません。というのも、この保障には、精神的損害(慰謝料)や逸失利益などは含まれないからです。結果として、遺族が病院に過失があったと考える場合、行政訴訟(労災認定)とは別に、民事訴訟を提起するケースが急増しています。

■使用者に安全配慮義務違反があるとして,損害賠償の支払を命じた事例

 大阪府立病院(大阪市、現府立急性期・総合医療センター)に勤務していた麻酔科医奥野恭嗣さん=当時(33)=が死亡したのは過労が原因として、母親泰子さんが府に約1億5,000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は2007年3月30日、約1億円の支払いを命じた。
  古谷恭一郎裁判長は、勤務時間を裏付ける唯一の証拠だった超過勤務の報告書は「医師が実際より過少申告する傾向にあり、実態を正確に反映していない」と信用性を否定。タイムカードもなかったが、上司や同僚の証言から「業務の量的、質的な負荷は極めて大きかった」と指摘しました。
  判決によると、奥野さんは1994年から府立病院麻酔科で勤務。死亡前の半年間は最高で月9回の宿直勤務があり、毎月90時間弱の残業を続け、96年3月に急性心不全で死亡した。

2004年1月に自殺した女性医師(当時28歳)の両親が「過労によるうつ病が原因」として勤め先の「十全総合病院」=愛媛県新居浜市=を運営する財団法人に対し、約1億9,000万円の損害賠償を求めた訴訟が、病院側が和解金6600万円を支払うことで大阪高裁で和解した。
和解は2008年8月28日付。1審大阪地裁は2007年5月、過重な業務が自殺の主な要因だったとして、医師の過労自殺を巡る訴訟で病院側の法的責任を初めて認定し、約7700万円の賠償を命じた。しかし、過失相殺の割合を不服とした両親と病院側の双方が控訴。高裁は2回にわたり和解を勧告していた。

医師・看護師の過労死による労災認定・民事訴訟の状況
医師・看護師
死亡時
の年齢
勤務地
種別
労災認定など
外科医勤務
29歳
茨城県
過労自殺(1992年4月) 労災認定(2005年)
産婦人科勤務医
35歳
山梨県
過労死(1995年) 労災認定
麻酔科勤務医
43歳
大阪府
過労死(1996年3月) 損害賠償判決(1審)
小児科女性勤務医
43歳
千葉県
過労死(1997年) 労災認定(1998年)
関西医大の研修医
26歳
大阪府
過労死(1998年8月) 労災認定、最低賃金保障(2005年6月)
整形外科勤務医
 
神奈川県
過労死(1998年) 労災認定(2003年)
小児科勤務医
44歳
東京都
過労自殺(1998年8月) 労災認定(2007年3月)
部長医師
53歳
東京都
過労自殺(1999年9月) 公務労災認定(2004年)
横浜市立大の研修医
30歳
神奈川県
過労自殺(2000年9月) 労災認定
嘱託医
30歳
沖縄県
過労死(2001年1月) 和解
内科勤務医
43歳
福岡県
過労死(2001年6月) 労災認定(2006年)
外科医勤務
38歳
栃木県
過労自殺(2002年6月) 労災認定(2008年3月)
小児科勤務医
31歳
北海道
過労死(2003年10月) 労災認定(2007年2月)
麻酔科女性医師
28歳
愛媛県
過労自殺(2004年1月) 和解(2008年8月)
外科医勤務
44歳
京都府
過労死(2004年5月) 労災認定(2006年8月)
日大の女性研修医
26歳
東京都
過労死(2006年4月) 労災認定(2007年2月)
看護師
24歳
東京都
過労死(2007年5月) 労災認定(2008年10月)
看護師
25歳
大阪府
過労死(2001年3月) 公務労災認定(2008年10月)

 

→ 5. メンタルヘルス対策が急務

 

 

 

病院を取り巻く環境

1. 病院数は漸減傾向続く
2. 厳しい病院経営
3. 病院の倒産は今や珍しくない
4. 医師不足が広がる
5. 医事過誤訴訟が増加
6. 医療事故は刑事事件にも発展
7. 医療機関も情報開示に前向き
8. 病院経営に求められるもの

病院を取り巻くリスク

1. リスクの例
2. 病院が手配すべき保険
3. 保険を種類別に見る
4. 医療関連の損害賠償例

事業承継対策・相続

1. 出資持分評価額は高額になる
2. 高額な評価額から問題が発生
3. 医業承継のための事前準備
4. 医業承継対策は3つ

過労死水準の医療現場

1. 勤務医の労働時間は
2. 身も心も疲れている看護師
3. 過労死が増える。
4. 行政訴訟から民事訴訟へ
5. メンタルヘルス対策が急務